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彼女の願いを叶える一助になればと、俺は今日三回目となる行為に及ぶため、エイプの胸に手を伸ばした。
が、俺の手はぱたりと叩かれてしまった。恥らっているだけだろう。そう思い再度伸ばした手は、エイプの口元に浮かぶ皮肉の陰影を見て、それ以上求めるのを躊躇った。
薪が爆ぜ、炎が揺れる。影も変化し、エイプの浮かべる微笑は妖艶なようにも無邪気なようにも見えるのだが、その根底には皮肉があった。幻視ではない。確かにエイプが見せつけているのだ。
「なんだよ、その目は」反響した声は、自分でも驚くほど冷たい。「そんな目で見るなよ」
「どんな目で見て欲しい?」
「どんな目って、そりゃあ……いつものように」
「いつもね。いつも。ふふ、カルマ、私がいつもあなたをどんなふうに見てるか、わかる?」
含みのある聞き方をする。エイプとの生活に特段緊張などはなかったはずだけれど、エイプとしては何か思惑があったのだろうか。無論、子を儲けて存在を繋ぐという目論見はあっただろうが、敵意のようなものを感じたこともない。
答えに窮していると、エイプが身を起こし、ねっとりとした動きで俺に顔を近付けてきた。
「わからない?」
エイプの口から、微かに精液の臭いがする。気持の良い臭いではない。顔を背けたかったが、俺を真っ直ぐ見つめるエイプの瞳には抗い難い。
「わからない」
絞り出して言う。目の奥は冷え切ったまま、エイプの目尻が下がった。
「カルマ=ディエゴとして見てるのよ」
そう言うと、エイプは離れた。そのまま、何も無かったかのように服を着だす。獣の皮を鞣して繋ぎ合わせただけの簡素な衣だ。
「からかってるのか?」
「……そうね。ちょっと意地悪してみたくなっちゃったの」
エイプが微笑む。その微笑に何とも言えない違和感を抱いたが、問い訊ねてものらくらと躱されるばかりで、俺としてはすっきりしないまま、その日は床に就いた。
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