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横穴の周辺は開けている。ここを見つけたその日のうちに生い茂っていた草木を伐った。頑丈な枝を組み合わせ、物干し台を作った。干し肉用と洗濯物用とを作ったが、やがて洗濯物はそう多く出ないとわかり、干し肉が洗濯物用の物干し台を侵食した。
あの時は未来への不安で一杯で、何一つ楽しいことはないように思えたけれど、今やっと、あの生活自体が楽しかったのだと気付いた。どの記憶を辿ってみても、隣にはエイプがいて、そしてエイプは笑っていた。きっと、俺も。
俺は茂みの奥へと伸びる二本の獣道の、左の方を選んで歩き出した。もしかして。そんな頼りない希望があった。
行く手を遮るように垂れ下がる枝葉を払いながら、緩い傾斜を上っていく。と、ある所で急に視界が開ける。山の途中のちょっとした峰のような所で、物見台にしようと、やはりエイプと共に切り拓いた場所だ。
目を凝らし辺りを見下ろすも、エイプの姿は見えない。エイプは山の地理を熟知している。愛を確かめたくてあんな書置きを残したのでなければ、俺に見つかるようなルートを選ぶはずがない。ほんの僅かな希望も砕かれて、どうしようもなくその場に座り込んだ。
左手には、王国を囲む高い壁と、王城の尖塔、そして尖塔を超えて立ち上る煙が、王国のあちこちから見えた。
数日前、居住区外から真っ直ぐ王国を目指すモンスターの一群が現れた。高い壁と、組合員それに衛兵の反撃にあい、モンスターの群れは死屍累々の山と化したが、それ以降、昼夜を問わず断続的にモンスターが来襲するようになった。
モンスターが種類を問わず群れを成し侵略行為を起こすなど、過去例を見ない。王国は、恐らく原因を探るためだろう、第一波のモンスターが来た方へ五隊のキャラバンを三日ほど前に派遣した。
キャラバンは未だ帰還せず、王国はモンスターに応戦するため夜通し起きている。キャラバンが戻るのが先か、王国が陥落するのが先か。仮にキャラバンが戻り原因がわかったとしても、それで解決策が打てるとは限らない。そうであれば、王国は世界全てのモンスターと戦わなければならないのか。
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