魔王

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しかし、ディアの死体を置き去りにしてベッドに寝ているイリスの元へ歩いていく。 すでに寝息を洩らすイリスを見下ろして、安堵(あんど)の表情を浮かべた。 ベッドの柱に繋がれた両手両足の枷を見て、パチンっと指を鳴らした。 その途端、全ての枷にヒビが入ると脆く割れた。 「淫花の香か…厄介な事を…」 近くに在るテーブルの上に置かれた香壺を取り、匂いで淫花だと知ったリュードはすぐさま蓋を被せた。 淫花とは…魔界でいう花の香で魔物には害はないのだが、人間には麻薬になってしまう。少し吸っただけで快楽を味わう効果が出るが副作用があり、イリスはかなりの間その空気の中にいた為に中毒の恐れもあるのだ。 「私の城に連れていくか…シャル来いっ」 未だに目を覚まさないイリスを見てディアに裂かれてしまった黒服を脱がせて体に被せると両腕に抱えて、ゆっくりと闇へと歩きだす。 実は、此処は魔界に在るディアの住まいだった。 しかし、その主人はすでに息絶えて変形までしている。 「リュード様、何か御用でしょうか…ってアレ?」 歩きだしたリュードの前に一人の男が現れた。背格好はリュードよりは低く、体系は華奢で茶色の短い髪に眼鏡をかけた好青年だった。服装はスーツ姿をしている使い魔だった。 「ディアは死んだ…城に戻るぞっ」 状況を把握できないシャルにディアの死を知らせて、扉の方に進んでいく。 「はい、リュード様!…その人間は一体?」 シャルは了解するとリュードに抱えられているイリスに気付いて、問い掛けた。 今まで遣えてきたが人間と一緒にいるリュードの姿を見たことが無いからだ。 「私の友人だ、ディアに淫花の香を焚かれて襲われていた…悪いが床に置いてある荷物を持ってきてくれっ」 シャルの問いにすぐに答えるとリュードは、さっさと歩き始めた。 急いで城に連れていき、医学能力を持つ使い魔に見せなければならない。 「ハイ、リュード様っ」 シャルは言われた通りにイリスの荷物を取りに行き、バッグと拳銃を纏めて片手で抱えると後を急いで追い掛けた。
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