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友は逝った──。
自らの抱えていた闇に呑まれ、禁忌ともいえる代物に手を染め──その魂さえも悪魔に譲渡してしまった。
──何故、気付かなかった?
──何故、彼女の心に寄り添う事をしなかった?
──何故、彼女を救うことが出来なかった──?
「すまない……私が、もっと早くにお前と会っていれば……!」
黒髪の少女騎士──クロエもまた、僅かな灯火が揺らめく個室の中で失意に打ち拉がれていた。
ベッドに腰掛け、腰を曲げて俯いている為に自身の膝を、ぐっと塞いだ瞼から零れ落ちる涙で点を描きながら濡らしていく。
「クロエ」
不意にくぐもった声が鼓膜を震わせる。
男性の声だった。 聞き慣れた声──然し、今は自身の姿を晒すことが憚られる者である事を知ると、発しかけていた言葉が喉の辺りで止まってしまう。
「──入るぞ」
返答を待たずして入室した、当人の足音が近づく度に胸の鼓動が激しくなる。
──今、自身のこの不甲斐ない姿を見られたくなかった。
──弱々しい自分を見せたくなかった。
そんな思いとは裏腹に、少年──セネルはクロエに背を向け、鏡合わせの如くベッドに腰掛ける。
「──すまない、クロエ。 オレ、あいつのことを助けてやれなかった」
ハッと顔を上げ、零れ落ちる涙がその勢いを失った事など気に留めることなくセネルの方へと振り向く。
「何かしら手段があったのかもしれない……けど、結局それを見つけることが出来なかった……。 本当にすまない」
「な、何を言うのだクーリッジ! お前にそのような責任など……! 寧ろ私の方が──!」
「お前一人に背負わせる責任なんてないだろ。 これは、オレ達アドリビトムの問題でもあるんだ」
それを言われるとクロエも反論する手立てはない。 個人同士の間柄があるとはいえ、元はギルドに申し立てられた依頼から始まったものであり、まったく関わりのない事で片付けて良いものではないのだ。
現に被害者が多く見られ、更には事件の当事者が逝去する事態に及んでいるとなれば尚更である。
クロエは今一度思い直してはみた──が、やはり慙愧に堪えない事には変わらず、滞っていた涙が再び彼女の頬を濡らしていく。
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