五章 ディーモンズ・ラブ

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が、あまり参考にならない。 露彦を殺してしまった真也は、あのあとすぐ、後追い自殺してしまったからだ。 「真也が生きたのは、パンデミック後の地球だ。真也の作った新薬を、誰かが月に持ちこんだということか?」 「わたしは研究所にいたころ、子どもだった。すべてを理解してるわけじゃないわ。でも、あのころ、まわりの大人が言ってたことを要約すると、こういうことになるんだと思うの」 キャロラインは記憶をひきだすように考えながら話す。 「ジョウノウチをさらって、パンデミックを起こしたテロ集団が、どの国のものだったか、今になっては、わからない。 でも、パンデミックの威力に一番おどろいたのは、彼ら自身だったんでしょうね。あたふたしてるすきに博士は逃亡した。 そして、保護を求めたのが、今、博士の研究をひきついでいるーー」 サリーは、すばやく口をはさんだ。 「あててみようか? ネオUSAだろ?」 「そうよ」 「だと思ったよ。アメリカは、どこよりも早く月に脱出した。パンデミックが来ることを予測できたからに違いない」 「パンデミックが来る前に、いくつかの国は、それを知ってたみたい。そこらへんの事情は、わたしにも、よくわからないけど。研究員が話してたことが正しいとも、かぎらないし。 とにかく、彼らは月に逃げだした。ジョウノウチを中心に研究チームを結成した。 だけど、なれない月生活で、まもなくジョウノウチは死んだの。設備も整わないし、研究は暗礁に乗りあげた。 そんなとき、NASAの地球探査隊が、ものすごい発見をして、月へ持ち帰ったの。 地球上のあらゆる国で、人類は死に絶えてるだろうと、探査隊は考えてた。なのに、東のはての島国で、信じられないようなものを見つけた。 人工子宮のなかで成長した、スクラッチド・ベイビーと、ミタライワクチンよ」 「それ、いつごろの話?」 「西暦で言うと、二千八十年から百年のあいだだと思う」 「ちょうど、月でスクラッチド・ベイビーが市民のなかに、まぎれこみだしたころだ」 「シンヤたちの研究施設は、プリンスやシンヤという中心人物が死んでしまった。ワクチンを完成させることはできなかったみたい。 それに、たぶん、二人が死んだ直後。薬屋の掃討作戦をまぬがれた、少数の疫神の襲撃があったんだと思う。
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