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それが、エンデュミオンとザディアスの最初の物語。
もともと人の心の無意識の欲望がつくりだした闇の国を、精霊使いのリーンが全身全霊で呼んだので、二つの世界は、ぶつかりあってしまった。
精神の世界が物質の世界に、ひきよせられたのだ。
衝突点にあったサリの王国は、裂けめに飲まれた。
そこに住む大勢の人間とともに。
闇の国に落ちた人間たちは、精霊と混血した。
両者のあいだに、精霊のふしぎな力と人間の頭脳をもった魔物が誕生した。
リーンに悪魔と、ののしられたサリは、言葉どおりのものとなって、闇の国に転生した。
ザディアスは闇の王となっても、それでも、まだ心が満たされなかった。
そのわけが、ようやく、わかった。
リーンがいないからだ。
あの憎い愛しい女は、人の世に、とどまった。人の世で転生しているに違いない。
夢中になって、さがした。
魔物であるザディアスには、もう明るい陽光のもとを歩くことはできなかった。光に焼かれて体が傷ついてしまう。
夜の闇にまぎれて、多くの女をさらった。が、どれもリーンではなかった。
人の世の時間に束縛されないザディアスは、過去や未来を必死にさがした。
そして、見つけた。リーンは生まれ変わっていた。
サリの生きた時代より数百年後に。
ヘレネーという名の黄金の髪の王女として。
彼女はシ=ムーの生まれ変わりの男と結婚を約束し、幸福に暮らしていた。
私を深い闇の世界へ落としておきながら、彼女は自分だけ幸せになろうとしている。
最初から私など存在しなかったかのように笑っている。
つれない、残酷な恋人。
おまえも私に惹かれていたと感じたのは、やはり錯覚だったのか?
彼女の寝所に立ったとき、彼女は言った。
「なぜ、泣いてるの?」
「魔物は泣かない。涙を失ったからだ」
「でも、あなたは泣いているわ」
カガミを見て、ウンザリした。
血の涙が、あふれている。
「これは私が人であった最後の名残だ」
「あなたは人なの?」
「いいや。魔王だ。これから、おまえを私と同じものにする」
ふたたび、ザディアスは彼女をさらった。
闇の国へ、つれ帰り、自分の子を彼女に生ませた。
闇の国では時間の流れかたが異なる。人間は月下美人の花のように、一夜にして、しぼんでしまう。
だから、彼女の腹のなかに、ザディアスの血と彼女の血をまぜあわせ、器を作った。
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