五章 ディーモンズ・ラブ

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彼女の魂を植えつけるための器だ。 リーンの魂を、魔物の体に移しかえたわけだ。 それが、エンデュミオン。 自分がリーンだったことを、エンデュミオンは忘れてしまっていた。 でも、それは、ザディアスにとって好都合だった。彼女を対等な恋人としてではなく、絶対的な支配下におくためには。 父であるザディアスには絶対服従するよう、仕立てあげた。ザディアスを愛し、求めるように。 「かわいい、私のお人形。おぼえているな? エンデュミオン。おまえが闇の国で、初めて私のものになったとき、記念につけてやった鈴のピアス」 「思いだした。全部、思いだしたよ。父上。ゆるして。あなたから逃げだした私を罰して」 キャロラインの薄紫色の瞳が、涙で、うるむ。瞳の色だけは、エンデュミオンと同じ。 「でも、私に飽きたから、いらないって言ったのは、父上じゃないか」 「そなたが、あまりに愛されていることに自信満々だったので。こらしめたのだ」 「ひどいや。私は、ほんとに、なげいたんだから。あなたに、すてられたと思って」 「だが、新しい趣向は楽しかったろう? そなたは何千回と輪廻をくりかえすあいだ、つねに涙にあえいだ。愛らしかったぞ」 「ほんと? 父上?」 甘ったれた顔で、見つめてくる。 サリーは、そばかすのエンデュミオンに、くちづけた。 「愛しているよ。エンデュミオン」 「そんなの、父上らしくない」 「この体は、私の本体の一滴の血から作られた、まがいもの。パーソナリティが本体ほど、デモーニッシュではない。やはり、今の私は、サリー・ジャリマと言うほうが、ふさわしい」 「それを言うなら、私だって。魔物の私の体は消滅しちゃったけど、どうしよう?」 「もう一度、作りなおせばいい。ヘレネー王女にしたことを、君にする」 「もう一度、教育してくれるんだね。うれしい」 「だが、ひとつだけ問題が残る」 とても重要な問題だ。 それは、今のサリーたちの生死にかかわる。 「エンデュミオンの記憶を思いだしたなら、君の幼少期の記憶も、もどったんじゃないか? 君が逃げだしてきたのは、例のアレだろ? どっかの政府が秘密裏におこなってる。ESP研究所」 キャロラインは、うなずく。 「ミタライワクチンなのよ」 「前も、そんなこと言ってたね。やはり、あれが重要なのか」 サリーは前世の真也の記憶を思いだしてみた。
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