五章 ディーモンズ・ラブ

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探査隊が発見したときには、研究所は破壊されてた。白骨化した死体がゴロゴロ、ころがってたそうよ。 でも、研究所の奥深くには、厳重に守られていたデータや、ミタライワクチンが残ってた。人工子宮のなかには、スクラッチド・ベイビーが生きていた。 探査隊は、それを月に持ち帰った。シンヤたちが中途までしかできなかった研究を進めた。それでね。ミタライワクチンの、ある効果に着目した。 ほら、M酵素って、キャリアからノンキャリアに、輸血感染させたとき、クセがあったじゃない? キャリアの遺伝子を百パーセント転写するわけじゃなく、八十パーセントだけ写す。残り二十パーセントは別の変異を起こす。 ミタライワクチンでは、変異後の爪跡をかくすことで、もう一度、劇的変異を起こさせた。このとき、遺伝子は、もとの正しい配列に戻ろうとする。 だけど、この方法だと、Mのクセで、八十パーセントしか、もとに戻らない。二割は塩基配列のなかに変異を残してしまうのよ」 「ああ。そうなるね。劇的変異を抑えることはできるが。あれは、もともと、ワクチンとして開発したものではなかったから」 「もとに戻らない二割のことを、彼らは変異残余と言ってたわ。変異残余のある人間は、おおむねESP 能力がアップするの。体に奇形が残ったりもするけどね」 「つまり、M酵素の変異をコントロールして発病を抑えるより、かんたんに効果が得られるわけか。変異残余を作るほうが」 真也が生きていれば、そんな研究もしたかもしれない。 「そう。それで、彼らはミタライワクチンとスクラッチド・ベイビーを量産した。スクラッチド・ベイビーにミタライワクチンを大量投与するために」 サリーは、うなった。 「残酷なことをするな。でも、何をやりたいかは見当がつくよ」 「そう。スクラッチド・ベイビーは遺伝子操作で生まれるエスパー。変異残余によって、その力は、さらにアップする。 シンヤたちの研究データのなかに、疫神の記述もあった。それが参考にされたわ。 キャリアを輸血感染させていくと、代をかさねるたびに、ESP能力が高くなるっていう記述ね。 彼らは変異残余を持たせたキャリアから、ノンキャリアへ輸血をかさねた。 そのうちの奇形化をおこさなかった子どもだけが生かされた。体に異常の発した子どもは切りすてる。
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