五章 ディーモンズ・ラブ

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そうすれば、身体的には正常で、より能力の強いエスパーができあがる。 こうして、できあがったエスパーの遺伝情報を、人工子宮生まれの市民の遺伝子に組みこむ。今の四億人のエスパーは、こうやって造られた」 「なるほどね。エスパーにスクラッチが必要だったのは、そのためか。ヘルに感染させないためではなく、変異残余をかさねていくため」 「そして、ついに実験は完成しようとしている。あなたやユーベルみたいな、トリプルAのエンパシストが誕生した。あなたなら、オリジナルからクローン再生体へ、記憶を複写することもできるでしょ?」 サリーは舌打ちをついた。 どうやら、自分は、まんまと罠にかかったらしい。 そのつもりもなく、敵の本拠地に、とびこんでしまった。 サリーは常日頃、身辺に怪しい監視がついてることを知っていた。姿は見えなくても、エンパシーで感じていた。まとわりついてくる視線を、どこにいても感じていた。 ことに、このネオUSAに入ってからは。 「まずいな。いつ拉致監禁されても不思議じゃない。彼らは秘密工作員を私の身辺に置いている」 「ユーベルをディアナに送ったから、警戒させてしまったかもしれないわね」 「そうなると、ユーベルも危険か」 「あの子はエンデュミオンのメッセージを送り続けたことで、力を使いはたしたことにしておけばいいわ。Bランクくらいの能力しか使えなくなってしまったって」 「それはいいね。ディアナの市長に、そのように発表してもらおう」 残るはサリーとキャロラインだ。 サリーには、ずっと監視がついている。 キャロラインもグリーンヒルズ夫妻の実子ではないことがバレると、ふたたび追われる身となるだろう。 「すぐに月を出よう。いますぐ出発の準備をして」 二人は急いで、トランクに衣服をつめこんだ。 さて、出発しようと、スイートルームのドアをあけるーー 「おや、これから、おでかけですか? トランクなんて持って、まさかチェックアウトなさるんじゃないでしょうね? ひとこともアイサツなしとは、つれないですね」 ワイルダー事務次官の顔を見て、サリーは、ため息をついた。 「うかつだったよ。君は政府関係者だからな。私のまわりを、かぎまわってたのは、君か」 ジムの手には最新式のショックガンが、にぎられていた。最大出力にすれば、ゾウでも即死するやつだ。
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