150人が本棚に入れています
本棚に追加
『なんですか?』
『くわしくは移動中に、テレパシーで伝える』
『わかりました』
なごやかに手をふって、トウドウと別れた。
エアタクに偽造した政府の反重力カーに乗せられる。だが、車が走りだしても、ずっと、心ではトウドウとコンタクトをとっていた。
『……そう。エンデュミオンはキャロラインだった。それで、彼女が幼少期の記憶をとりもどしたので、いろいろと、わかってね』
『わッ、とつぜん、エンパシー。なるほど。わかりました。そういう事情ですか』
映像まじりで伝える。
エンパシストどうしだから、話が早い。
『このまま逃げても、一生、私もキャロも追われる身だ。それなら、いっそ、すべて清算したい。そのほうが君やユーベルだって安全だしね。そこで、君にやってもらいたいことというのは、こうだ』
サリーの説明を聞いて、トウドウの意識が高揚してくる。
『いいですね。やりましょう。こっちの準備は、まかせてください。十五分ーーいえ、十分以内で完了させます』
『じゃあ、また、あとで』
コンタクトを切った。
ひとまずは、安心だ。
もっとも、命の危険であることに変わりはないが。
まどの外に色とりどりのイルミネーションが流れる。きらびやかな夜景を縫って、反重力カーは走り続けた。アラバマシティをぬけ、テキサスシティへ向かっているようだ。
「行きさきは、ヒューストンか?」
「つけば、わかりますよ」
ジムは笑う。が、まず間違いはない。
個人旅行者のシャトルは、ディアナのステーションからしか発着しない。政府機関の所有する公用シャトルの発着場は、一般市民の立ち入り禁止だ。
秘密の研究所が内部にあっても、誰にも知られずにすむ。
「それにしても、君、キャロに気があるんじゃなかったのか? キャロに乱暴はしないでくれたまえ」
「もちろんですよ。サーが、おとなしく、我々に従ってさえくだされば」
ジムは、まだキャロラインが研究所から逃亡した実験体だとは気づいていない。
やがて、反重力カーは目的地についた。
厳重に警備された基地だ。
「どうぞ。なかへ」
銃をつきつけられて、サリーは歩きだした。
最初のコメントを投稿しよう!