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トウドウは苦労知らずに見えて、あんがい、タフだ。ほんとに優秀な助手だ。
サリーは見つめる。
人体を切りきざみ、遺伝子をもてあそぶ、実験室の凄惨きわまりない光景を。
牢獄のような隔離室で飼育される、家畜同然の子どもたち。多くは奇形化したヘル患者だ。
「危険だな。完全に密閉してるつもりかもしれないが。万一、外にM酵素が、もれたら? 人類の八割はスクラッチを持っていない。月でパンデミックが起これば、十六億の人間が死ぬ計算だぞ」
「そんなヘマはしませんよ。サー。ご安心ください」
「しかし、疫神の例だってある。私は、まだテレポーターを見たことはないが。もしも、キャリアがテレポーテーション能力を持って、脱走したら?
君たちの作ったM酵素は、テロ用に開発されたものではないだろう。細菌に寄生する力はないかもしれない。
しかし、それでも、人間だけでなく、ほとんどの哺乳類のなかで繁殖する。
どんな経路で爆発的に増えるかわからない。脱走者の死体を野生動物が食べるかも?その結果、人間に血液感染するかもしれない。
こんな恐ろしい実験を、君たちは百年も続けてきたんだ。大統領の命令で。そうだね?」
ジムは青ざめた。
弱々しく抵抗する。
「大丈夫です。この隔離室の内には、ESP遮断電波が張りめぐらせてありますから。このなかから、やつらが逃げだすことはできない」
「だが、すでに、ここから逃げだした被験者がいるじゃないか。二十年前にね。彼女がキャリアではなかったからいいようなものの。決して、施設のセキュリティが万全ではない証拠だ」
ますます、ジムは青ざめる。
もういいだろう。
インパクトは充分だ。
これで、あとは、ほっといても、世界中が大騒ぎしてくれる。
しかし、ちょっとばかり、ジムを追いつめすぎた。
とつぜん、ジムは標的を切りかえた。シャックガンの銃口は、キャロラインに向く。
「おい? なんのつもりだ? ジム・ワイルダー」
「へらず口は、たくさんだ。あんたたちは、もう逃げられない。サー。そこの実験室に入ってもらおうか。
さっそくだが、一人、手術してもらう。それが成功すれば、次は大統領だ。とうぶん、あんたは忙しい。寝るまもないほどにな。
おっと。おかしなふるまいをするな。彼女が傷つくのは、イヤだろう?」
「人質をとって、おどすとは。とことん卑劣だな」
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