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ジムがキャロラインに銃をつきつけて、おどす。
しかたなく、サリーは実験室に入った。
実験室というより、そこは外科手術室に近い。
なかへ入ると、すっかり準備が、ととのっていた。
二つの手術台。
一方には年老いたオリジナル。もう一方には、若々しいクローン体が、よこたわっている。
周囲に、機密服みたいな術衣と防毒マスクをつけた研究員が、数名いた。
そのなかの一人が、アンプル一体型の注射器を手にしている。
サリーは初めて、うろたえた。
「まさか、そのなかみはーー」
サリーの動揺を見て、ジムは喜んだ。
「安心してください。それは、ただのミタライワクチンだ。それじたいには、なんの害もない。ただ少しのあいだ、肌がピンクに染まるだけですよ」
さっと片手をふって、ジムは研究員に合図する。
防毒マスクのせいで、ロボットみたいに見える研究員が、キャロラインに近づく。
「やめろ」
サリーは怒りを押し殺した低い声で、引き止めた。
もちろん、研究員が聞くはずもない。
キャロラインの腕に、薬剤が注入されていく。
まもなく、キャロラインの肌は桜色に染まった。ほろ酔いかげんのように、全身、上気して、とても美しい。
本当に、それは、ただのミタライワクチンだったようだ。だが……。
サリーは唇をかんだ。
「やってくれたな」
ジムが、あざわらう。
「サーは、もう察してるようですな。あんたがたエスパーの遺伝子には、生まれつき爪跡がついてる。今、彼女にミタライワクチンを打って、爪跡に目かくしした」
そう。それは、一時的に、キャロラインがM酵素に対して、無防備になったということだ。
「じっさい、そこまでやるとは思わなかったよ」
「おお、ゆるしてください。やりたくて、やってるわけじゃないんだ」
それは、どうだか。
こいつ、キャロにフラれたことを、けっこう根にもってたんじゃないか?
ジムは高笑いして続ける。
「ここで、さらに彼女にM酵素を注射したら? さて、どうなるでしょうね? 頭のいいサーなら、わかるでしょう? あんたは我々に逆らえない。素直にしたがうしかない」
ジムの言うとおりだ。
まさか、かつて自分が作ったものに、ここまで追いつめられるとは。なんて皮肉だろうか。
ジムが再度、合図を送る。
もう一人の研究員が、別の注射器をとりだした。
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