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「それが、わたしの能力だから。わたしの細胞はね。劇的変異の変形に耐性があるの。疫神も最後のころには、そんなタイプが生まれてたでしょ?」
「露彦みたいな」
では、彼女は露彦みたいになるのだろうか?
露彦が疫神になったときのような?
あの陽炎のように、はかなく美しい魔物に?
彼女は、ささやく。
「露彦みたいな。そして、氷河みたいな」
「氷河の話はするな。妬くよ?」
にッと、彼女は笑う。
その唇が、やけに赤い。
顔つきが変わっていた。あれは……あの顔は……。
「わたしのは彼らより、もっと完ぺきな耐性。変形を起こしても細胞が壊死しないだけじゃない。何度でも変形が可能なの。
こういう変異をしたのは、被験体のなかでも、わたしだけ。これが、わたしだけの能力。
トランスフォーメーションーー!」
うっとりと、サリーは見つめていた。
サリーの魂を根こそぎ、うばっていく、その姿。
ずっと、さがしていた……。
「エンデュミオン……」
それは夢のなかで見た、エンデュミオンの姿だ。
金色の髪の。薄紫の瞳の。白い肌の。
永遠の少年。
夢のなかにしか存在しない美の結晶。
「エンデュミオン。今度こそ、行こう。誰にもジャマされない世界へ」
「うん。行こう。今度こそ」
一瞬ののち、エンデュミオンの姿はジムのとなりから、サリーのとなりへ移っていた。
「テレポーテーションか」
「この姿のときには、ESP能力が数百倍になるんだ。なんでもできるよ。魔物のころの私に変異してるらしい」
「だろうね」
ジムは、とっくに腰をぬかしていた。
ガタガタふるえながら、銃口をむけてくる。
「ま……待て! 逃さないぞ」
サリーは、もはや、ジムに哀れみしか感じない。
「ジム。かわいそうだが、君たちの研究所はもう終わりだ。月だけじゃない。火星、すべてのスペースコロニーの人に、君たちのしてることが知られてしまった。
アメリカ政府は、どう責任をとるのかな。大統領のリコールぐらいで、すめばいいが」
「なにを言ってるんだ。そんなバカなことが……」
サリーは種明かしした。
「トリプルAは、だてじゃないんだ。私の得意技を教えてやろうか。
私はね。その場で自分が見聞きしているものを、そのまま、エンパシーで他者に伝えられるんだ。私の目で見たままの映像。私の耳で聞いたままの音。
テレビカメラみたいなもんだよ。
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