赤いパンツ

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「光太郎くん、女の子は赤い色じゃないパンツも履くよ?」 授業が止まってしまう程に凍ってしまった空気をさらに切り裂くように、今時珍しい丸眼鏡を掛けた女子が追い打ちをかける。 「え?」 光太郎はただ首を傾げることしかできない。だって彼の当たり前は【女の子=赤いパンツ】なのだから。 「僕のママもいろんな色のパンツを履いてるよ」 「私のところもー」 「俺もー」 ここまで湧いてきて、ようやく光太郎は自分がおかしいことに気付き始めた。 「はい、授業に集中しましょう!!」 担任の先生はなんとか黒板に視線を戻そうと、無駄に大きな音を立てたりしてみるが時すでに遅し。 爆発した子供は止まらない。 「光太郎のかあちゃん赤パンツ!!」 「赤パンツ!」 「赤パンツ!」 授業などお構い無しに始まった赤パンツコール。そしてこれはこの日を境に、毎日行われるようになったのである。 金曜日。 最後の授業が終わり、帰宅した光太郎は一人涙を流していた。 いつまでこんな学校生活が続くのだろうか。死ぬまで続くんじゃないだろうか。 なんて不安を背負いながらも、事が事だけに母に相談する訳にもいかないと感じた彼は黙っている他なく、ただ一人で泣くしかなかったのである。 彼の母は仕事を終えて帰ってくるのが17時。貧乏な彼はゲームなどは当然持ってはおらず、時間を潰すには勉強ぐらいしかする事がない。 彼は泣きながら勉強をひたすらにやり続けた。 やがて玄関の戸が開く音がし、光太郎はペンを手放して駆け寄る。 そして母に飛び付き、わんわんと泣いた。 「どうしたんだい? 光太郎」 彼の母である花子は息子が泣いているのを見て困惑する。 それもそのはず。光太郎は昔からほとんど泣かない子であり、こんな姿を見たのは初めてだったのだ。 「ママあのね……」 光太郎は迷った。 母に学校で起こっていることを話すべきかどうか。話せば母も悲しむだろう事を利口な彼は理解していた。 その子供らしからぬ利口さは彼の口が開くのを止める。 光太郎のそんな素振りを見た花子は、彼が何を伝えたいのかを必死に考え始めた。 けれども彼女は自らの赤いパンツのせいで息子がみんなに笑われているだなんて思いもしない。 結果、出た答えはやはり的外れなものである。
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