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さよならウォッチ
腕から"ウォッチ"を外す。
遠くから声が聞こえた気がして振り返ると、昇り始めた太陽の日差しがカーテンの隙間から静かに入り込んでいた。
視線を手のひらに乗せた"ウォッチ"に戻す。裏蓋を開ければ直ぐに電池は取り出せる。
たったそれだけのことで全ての機能は止まる。
そして予備電池も取り外せば完璧に全ての記録は無くなる。
携帯電話からスマートフォンになり、次第にスマートウォッチが勢力を広げたのは数年前のことだ。耳内式のイヤホンが脳波を読み取りウォッチに送り、逆にウォッチからの情報は脳波に刺激を送ることで入出力デバイスもディスプレイも必要が無くなっていた。
今では誰もが腕に付けたスマートウォッチ無しでは生活に不便を感じるようになっている。
そしてだんだんみんなは『ウォッチ』とだけ呼ぶようになった。
ウォッチに人工知能が搭載されるとウォッチは更に人々の生活に浸透し、それはまるで新種のウィルスのように蔓延していった。
カーテンを全て開ける。
再びウォッチに目を向ける。
遠くから悲鳴が聞こえたような気がした。
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