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ぼくは、この国、モラトーク帝国の皇都近郊の宿場町で細々とお店を営む木工職人だ。
主な仕事は宿屋や飯屋の家具修理や、食器の販売。旅人の杖を作ったり、馬車の補修を頼まれたりもするし、親しい相手からは、家の屋根や壁の修繕なんかまで頼まれる。平たく言ってしまえば、木材関連の何でも屋、だね。
国は平和で、裕福ではないものの平穏で幸せな生活をしていたんだけれど、一年前、魔王の復活が伝えられたんだ。
魔王と言えば数百年前に人類を滅ぼしかけた、それはそれは恐ろしい存在。そのときの魔王は勇者によりからくも倒されたから人類は滅ぼされずに済んだけれど、魔王を倒した勇者はもうとっくの昔に死んでしまっている。
戦う術を持たないひとびとは魔王に滅ぼされる未来を思って、震え上がった。
世界中の国々が現状を重く捉え、すぐさま魔王城に近い国々が魔王討伐隊を結成・派遣したけれど、いっこうに吉報はもたらされなかった。
魔王討伐隊を出した国は逆に、魔王軍により侵略を受けていると言う。
しかし、抵抗せずともいずれ魔王軍の手は伸びてくる。
魔王城から遠い国も、だんだんと対魔王のための人員を調え派遣するようになって行き、魔王城からかなり離れたモラトーク帝国でも魔王討伐隊を派遣することが、先日発表された。
我こそは、と言う腕自慢たちが皇城を目指し、その通り道に当たるぼくの町は、皮肉にもそんな旅人たちで繁盛することになった。
宿場町にお客が増えれば自然とぼくの仕事も増えるわけで。
これでいい感じに倒されてくれたら、魔王さまさまなのにな、なんて。
馬鹿なことを考えていたのが、いけなかったのだろうか。
ぼくはある日突然やって来た国軍の騎士たちに、有無を言わさず連行された。
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