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「そなた、我が国の臣民であろう?」
この国に籍を持つ者は、貴賤にかかわらず皇帝の臣民。例外は、神殿に籍を持つ神職者のみ。
この状況で否定すれば首が飛びかねないので、おとなしく肯定した。
皇帝は頷き返すと、口端を引き上げた。
「なればそなたは我が臣下。主君の危機にはその身を賭して、戦うことが役目であろう?なぜ、逆らおうと言うのか」
無茶苦茶だ。
そう思ってもそのまま言うわけには行かず、皇帝を見上げて今にも止まりそうな思考を回した。
「わたくしの戦いは、剣を持つことではありません」
頭の沸いたロイヤルどもの、それでも威圧感のある視線に押し潰されそうになりながら、干からびた喉で言葉を紡ぐ。
「剣を持つことだけが、国を支えることではないでしょう。剣を持つ者、ペンを持つ者、鍬を持つ者、針を持つ者、あらゆる者が揃って、初めて国が成り立ちます」
火事場の馬鹿力、と言うやつだろうか。
そのときのぼくの口は、普段ならあり得ないくらい良く回った。
「わたくしは騎士でも剣士でもなく、木工職人です。戦場は野外ではなく工房であり、仕事は木材を加工しひとに役立てること。野外で剣を振るい敵を倒すことは、わたくしの仕事ではありません」
あんたには、立派な軍隊があるじゃないか。
ロイヤルストレートフラッシュを見渡して、もう一度皇帝に目を戻す。
「餅は餅屋、戦は兵士です。敵を倒すことは、どうか専門の者にやらせて下さい。わたくしでは、魔王は愚か畑を荒らす獣ですら、倒すことなど出来ません」
我ながら、最高の反論が出来た、と思った。
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