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「じゃあ、行こうか? パーッと歌いましょうかね」
「うん」
結局その日、大いに歌って家に帰った。
自分をさらけ出せる相手がいるということは、あたしは恵まれているなあって感じた。
ふたりきりになっても、なーんにもしないユウは、ある意味紳士だった。
で、その後、バレンタインデーにユウは後輩からチョコレートをもらった、とはしゃいで、わざわざあたしに見せに来た。
「よかったね~」
素直に、嬉しかった。モテない息子を持った母の気持ちに近かったと思う。
「俺にくれる気になったら、いつでも受け付けるよ」
そっか、欲しいのか。
「義理でもいい?」
「義理か、まあ、いいよ。義理でも」
「じゃあさ、買っとくよ。明日でもいい?」
「明日? まあ、いいよ。明日でも。じゃあ、俺、部活行くから」
「あ、そ。まあ、頑張れよ、キャプテン」
キャプテン、と呼んだら少し戸惑ったような顔をして、うんうん、と首を何度か縦に振ってからユウは部活へ行った。
あたしたちが利用している駅は、すずリンと翔くんが利用しているK駅の隣のU駅。
明日というのも悪いような気がして、駅で待っていた。この駅に改札口はひとつしかないから、すれ違うこともない。
「おーい」
宣誓をするように手を上げたら、ユウの目が丸くなった。
「何してんの?」
「何してんの、じゃないわよ。明日じゃさすがに悪いような気がして。はい、これ」
チョコの入った袋を差し出す。
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