序章 古い塔

2/6
2645人が本棚に入れています
本棚に追加
/315ページ
マヒア国王城に、建国当初からあると言われている古びた塔があった。 その塔が何の為に建っているのか、何が中にあるのかを知る者は最早居らぬ、蔦に覆われた不気味な塔。 今年で丁度5歳になるセサルージュ第3王子は、その塔の影に隠れるようにして蹲っていた。 「ひ、グスッ……ヒック、ぐ、うえ……」 諦念の籠った、押し殺した泣き声。 彼にとって、これが日常だった。 しかし、気紛れに非日常が顔を覗かせる。 『どうしたの?』 「……ぅえ?」 脳内に直接響いた、柔らかな女の声。 セサルは怯えた目で周囲を見回し始めた。 『ふふ、こっちよこっち。上を見て』 「え?」 つい言われた通りに上を見上げる。 すると、塔の硝子も嵌っていない窓から、白くほっそりとした手が伸びて、ひらひらと振られていた。 「う、うわああああ!?」 セサルは恐怖と驚きで転がるようにその場を後にする。 『あーあ。逃げられちゃったわ』 背後に聴こえた女の声に更なる恐怖を覚えながら。
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!