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マヒア国王城に、建国当初からあると言われている古びた塔があった。
その塔が何の為に建っているのか、何が中にあるのかを知る者は最早居らぬ、蔦に覆われた不気味な塔。
今年で丁度5歳になるセサルージュ第3王子は、その塔の影に隠れるようにして蹲っていた。
「ひ、グスッ……ヒック、ぐ、うえ……」
諦念の籠った、押し殺した泣き声。
彼にとって、これが日常だった。
しかし、気紛れに非日常が顔を覗かせる。
『どうしたの?』
「……ぅえ?」
脳内に直接響いた、柔らかな女の声。
セサルは怯えた目で周囲を見回し始めた。
『ふふ、こっちよこっち。上を見て』
「え?」
つい言われた通りに上を見上げる。
すると、塔の硝子も嵌っていない窓から、白くほっそりとした手が伸びて、ひらひらと振られていた。
「う、うわああああ!?」
セサルは恐怖と驚きで転がるようにその場を後にする。
『あーあ。逃げられちゃったわ』
背後に聴こえた女の声に更なる恐怖を覚えながら。
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