はじまり

2/14
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
やけに軽くなった体と頭で、辺りを見回すと足元に自分が寝ている。 「?」  すると、烏色の服を着た男がタブレットを見ながら突然現れた。 「失礼致します。登録ナンバー『ゐ・5572』の月宮良太郎様でございますね?」 「……はぁ」 男は、にこやかな笑顔を浮かべた。 「我社が管理しておりますデータによると、月宮様はあと60年と7ヶ月生命時間がございまして……ちょっとした手違いで」 「でえた? せいめいじかん?」 「おっと、これは失礼しました。データ……と申しますのは、月宮様の情報。とでも申しましょうか」 オレは烏男の顔を見つめたまま、手に持っていた竹刀にそっと手を添えた。 「おおっと。そんな物騒なモノを……そうでした……剣道の名手でしたね」 「オマエ。何?」 「落ち着いてくださいませ」 「オレに何をした」 烏男はタブレットに視線を落とすと冷淡な声で言った。 「貴殿は、部活へ向かう途中クラスメイトの女子がストーカーと思われる男に襲われそうになっている所を助けに入り、そこでうっかり刺されてしまった。と、いうことになっています」 「……あ」 断片的に記憶が甦ってきた。 「え? 死んだの?」 「正確には、生きておられます。昏睡状態でございます」 顔色ひとつ変えずに、烏男は頷いた。 「はぁ? 何? アンタ、死神? 妖怪? 魔法使い?」 「いえいえ、そのような妖しげな者ではございません、何と申しますか使者とでも申しましょうか」 「ウケる。それを信じろってんだ?」 「さようでございます」 烏男はニヤリと不敵に笑うと再び頷いて見せた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!