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「―――ん……」
ぽかりと意識が覚醒する。
瞼を開けば、ほの白く明るんだ室内に日の出前と知る。
傍らの温もりに視線を転じると、そこには眠る秋月の顔……安らかな寝息。
夏目の口元に、知らず笑みが浮かぶ。
薄手のTシャツの肩から落ちかけていた上掛けを引き上げれば、秋月がうっすらと瞼を開いた。
「あ……すみません」
起こしてしまった?と夏目が腕を引っ込める。んん、とまだ夢うつつのまま、秋月が顔を寄せてきた。胸元にごそごそと潜り込まれて、夏目が擽ったそうな笑いを零す。
「……もう、朝か?」
夕べの余韻で少し掠れた、半覚醒の眠そうな声。
「まだ早いですよ……今日はお休みだし」
寝てて、と。背中に回した腕で、夏目が赤子をあやすようにぽんぽんと軽く叩く。額に落ちた唇が笑みの形に緩むのを感じて、秋月が瞼を開いた。
「なに……どうかしたか?」
「あのね……夢、みてた」
囁きに、夢?と秋月が聞き返す。
「うん……俺がこの店に来たばっかりの頃の……」
懐かしかったと夏目。
「……あの頃はいろいろあったな」
夏目の掌にまだ薄く残る傷。自分の肩を抱くその手の上に、秋月がそっと自分の手を重ねた。
「あれからずいぶん経つけど、秋月さんは全然変わらないね……真っ直ぐで、キレイ」
頬にかかる甘い色の髪を掻き上げて、睦言めいた言葉を紡げば、秀麗な眉がつと寄せられる。
「それは男に使う形容詞じゃないと思うぞ」
「性差別な発言はいけませんよ」
真面目な顔で言う秋月に、夏目がくちづけで答えた。
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