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「……今日もお天気は良さそうだな」
白んできた窓の障子に目をやって、秋月が小さく伸びをした。
「ごめんなさい……目、覚めちゃった?」
せっかくのお休みなのにと、夏目がすまなそうな顔になる。
「いつもの時間に目が覚めてしまうのは、仕方ないよ」
落ちてきた前髪を梳き上げながら、秋月が身体を起こす。伸ばした腕でファンヒータのリモコンを取ると、スイッチを入れた。三月も末とは言え、東北の朝晩はまだ寒い。
と、後ろから伸びてきた腕で背中から抱きこまれる。
「こら、夏目」
「夕べは結構疲れさせたつもりだったんですけど……」
足りなかった?と悪戯っぽく訊かれて、秋月の目元が染まる。
「……今日はお花見に行こうか。弁当でも作って」
胸の上を意味ありげに這い始めた指の動きを強いて無視して、秋月が何気ない声を出した。
「お城の桜も、そろそろ咲き出してるようだし」
「花なら、ここでも見られますよ」
後ろから囁かれて、え?と秋月が瞳を瞬かせる。
ほらここ、と。夏目が、秋月のTシャツの襟ぐりを少し引っ張った。剥き出しになった鎖骨の肩口のあたりに、ぽつりと散った赤い花弁。
秋月が呆れたように声を落とす。
「……どうしていつも、痕をつけたがるんだ?」
「え……やっぱり独占欲っていうか……」
捻った首でまじまじと見つめられて、夏目が困った顔になる。
「俺のものだって、誇示したいというか……」
誰に?と秋月。
「誰にも見せられないだろう?こんなところ」
「……誰にも見せちゃだめですよ」
指が赤い鬱血痕をそっと擽る。秋月が解せないという顔になった。
「言ってる事が矛盾してないか」
「恋とは巨大な矛盾なんです」
格言めいた言葉を呟いて、夏目が秋月の耳朶に歯を立てた。かり、と噛まれて秋月が身を竦める。後ろから抱きしめていた夏目の腕が解けると、長い指がTシャツの裾から潜り込んできた。
「なつ……」
「……たくさんつけちゃった……夕べ」
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