3856人が本棚に入れています
本棚に追加
2050年10月1日
「……はいっ! 今週もシャインの異世界探訪のお時間がやって参りました! メインパーソナリティのシャインこと天城晴陽です! 今回もアナザーワールドの魅力をたっぷり紹介していくから、ちゃんと付いてきてね!」
マリアさんが手に持つカチンコがカッ! と硬質な音を立てると、俺達の前に立つシャインがアイドルモードの快活な笑顔を浮かべて、いつも通りの番組開幕の口上を述べてビシッとポーズを取る。
「さて、気がついたら今回で5回目になるこの番組ですが……今までは首都の紹介、首都近辺のフィールドワーク、攻略済みの主だった街の街歩きなどなどと進めてきたところを、今回はなんと! 現在の攻略の最前線に出てみたいと思います!」
そう言ったところで、再びマリアさんがカチンコを鳴らし、一旦撮影が止められる。
するとシャインはふぅ、と小さく息を吐いてからこちらに駆け寄ってきた。
「うぅ……表情筋が攣りそう」
「アイドルの言葉じゃないな……。ヘスティさんの方は、大丈夫でした?」
「はい、大丈夫でしたよ。バッチリ撮れてます」
オフモードに切り替えて早々アイドルらしからぬ言葉を口走るシャインに突っ込みつつ、マリアさんの傍らで撮影用のカメラプログラムを操作していた女性に確認を取る。
明るいブラウンの髪をベリーショートで切り揃え、背中にデカデカと「NOAH」と群青色の文字がプリントされた黄色のジャンパーを羽織る、如何にも撮影スタッフといった風体の彼女はカメラプログラムの操作のために運営から出向してきたスタッフーーまあ名前から察せられるようにヘスティアーだ。
ちなみに、俺が呼んだ「ヘスティ」という名は、何も俺と彼女が渾名で呼び合う関係というわけではなく、今の彼女のアバターネームが「ヘスティ」となっているからだ。
なんでも、このアバターは彼女が運営の権限で部下に用意させたもう一つのアバターということらしく、GM権限はそのままにキャラクターの容姿だけを一から彼女好みに構築するという、職権をこれでもかと乱用した結果らしい。
こんなアバターを用意した理由は、彼女曰く「それっぽくしたかったから」だそうで、そんな理由で余計な仕事を増やされたであろう部下諸兄には同情を禁じ得ない。
最初のコメントを投稿しよう!