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「……っ! じゃあ!」
「ええ、約束だものね。鍛冶屋マリアとして最高の剣を作ってあげる」
マリアさんの言葉に、ルナがハッと目を見開いて歓喜の声を上げると、マリアさんは薄く微笑みを浮かべ、力強く頷いた。
そして、そのまま俺の方へ視線を寄越すと、マリアさんは俺が持つ≪パラティウム・クロス≫の半身に向けて手を差し出した。
「本当なら、折れた剣はそのまま耐久度がゼロになって消滅するんだけど……稀に、本当に稀に武器の一部が残ることがあるの。
一部でも残れば確かに修理もできるし、武器に愛着を持ってくれてる人はそのまま修理をすることが多いみたいなんだけど、今回あなたはそれができない。
だから代わりと言ってはなんだけど、あなたがもしその剣に愛着を持ってくれているのなら、新たな剣の一部としてまた戦いに連れて行ってくれないかしら?」
「……そんなことができるんですか?」
「ええ。一度インゴットに戻して、ベースとなるインゴットと混ぜ合わせて新しい武器を作ることもできるの。
だからと言って何が変わるとかがあるとは言えないけれど、その剣が残ったことには何か意味があると思う。
だから、これは製作者としての我儘よ。別に聞き入れてもらわなくたって構わない。最高の剣を贈る約束はあたしの誇りに掛けて守るわ。
でも、もしもあたしの我儘を聞いて、その子の魂をまたあなたと共に戦場に送り出すことを許してくれるなら、あたしにその剣を預けてくれないかしら?」
そう言って俺の目をじっと見つめ返してくるマリアさんの目は至って真剣で、この剣にただのデータで形作られたポリゴンの塊以上の思いを向けていることを俺に雄弁に語りかけてくる。
この世界には、俺が知らないだけで数多くの鍛冶スキルを所有するプレイヤーがいることだろう。
もしかしたら、マリアさんと同等の実力を持つ者も居るかもしれない。
だが、ここまで自分の作品に真摯になれる人が他に居るだろうか?
そして、こんな真摯な思いを向けられて、それを無碍にできる人間がどこに居よう。
「そんなの、出来るならこっちからお願いしたいくらいですよ」
そう言って、頭を下げてから剣を生み出した親へと返す。
この剣は、これまでの三ヶ月の間に幾度となく助けてくれた。
ルナと共に多くの時間を共有したもう一人の相棒。その相棒とこれからの時間も歩んでいけるというのなら、願ってもないことだ。
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