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「来たみたいだな」
「ライト君が出るの?」
「ああ、ルナはマリアさんを呼んできてもらえるか?」
「わかった」
その不思議なノックの音を聞いた俺はコーヒーの入ったカップを置いて腰掛けていた椅子から立ち上がる。
この不思議なノックの音からわかるように、俺達は今前回ヘスティアー戦の後に野次馬達から逃げ込んだ隠れ宿ではなく、マザータウンの路地裏にあるマリアさんの万屋にいる。
家主は今は何か作業があるとかで奥の作業部屋に引っ込んでいるのでいないと言う事はないのだが、この部屋の中には実質俺とルナの二人きり。
さすがにシステムは玄関のノックの音を別室のマリアさんまでは伝えてくれないので、代わりに俺が来客を迎え入れることにした。
本来ならば来客はマリアさんを訪ねてきたプレイヤーという可能性もあるので俺が応対するのは筋違いと言うものだが、今だけはこの時間帯にこの家を訪ねてくるのは俺の知り合い一人だけということになっている。
「お待たせしました、ライトさん」
「いえ、どうぞ」
ドアを開けると、そこには灰色のチュニックの上に裾の短いローブを羽織った少女が佇んでいた。
左腰に着けたホルスターには一本のタクトのような小杖を差しており、一見すると魔法使いのような出で立ちの少女は「ありがとうございます」と一度お礼を言うと、ドアの陰になって俺からは死角になっている場所に顔を向ける。
「それじゃあ、入りましょうか」
「は、はい!」
安心させるかのような優しい声音で少女、リリアさんがそう言葉をかけると、木の板を挟んだ向こう側から可愛らしい声が聞こえてくる。
それを聞いて俺は「おやっ?」と思ったが、それは口に出さず、ドアを離れてリリアさんを奥へと促した。
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