再会

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「へぇ~、ショッピングモールにあるにしては雰囲気のいいお店ね。二人のお気に入りなの?」 「お気に入りというか、前にも来たことがあるってだけかな。確かにこの雰囲気は好きだけど」 向かい合わせの席に座り、仲良く談笑しながら優雅にコーヒーカップを傾ける二人を眺めながら「どうしてこうなった……」と心の中で頭を抱え、ずずず、となんだか苦く感じるコーヒーを啜る。 あの思わぬ邂逅の後、俺達は美月の荷物をロッカーサービスに預けてから何故かついてきた天城を伴って前回も来たあの女性店長が営む喫茶店に入っていた。 予定では来たるライブイベントに備えて適当なファミリーレストランやらにでも入り腹ごしらえをするつもりだったのだが、下手にアイドルを賑わっている店に連れ込もうものならどうなるか、容易に想像がついたので以前来た時も施設内がどこも客でごった返すなか不思議なくらい和やかな時間の流れていたこの店に足を運んだわけだ。 そうして来てみると、今日は前回よりもずっと多くの人出で賑わっているというのにこの店は変わらず数組の客がのんびりとお茶を楽しんでいるだけで、外の喧騒とは全くの無関係を貫いていた。 「ふふ、ありがとうございます。そちらの方は初めて見るお顔ですね……ああ、テレビでは最近よくお見かけしていますけど」 「……え?」 「今日は広場でイベントでしたね。頑張ってください」 二人の褒め言葉が聞こえていたのか、相変わらずのバーテン服に身を包んだマスターが柔和な微笑みをたたえて声をかけてくる。 そしてウィッグをかぶり直し、伊達眼鏡を装着して変装をし直した天城に視線を向けると、他の客に聞こえない程度に声量を落とし、そんな言葉を投げかけた。 「……あたしの変装、変なところでもあった? 一応マネージャーにやってもらったんだけど……」 「い、いや、完璧だと思うけど……」 「完全にバレてたね……」 よく天城の出演番組やらライブ映像やらをチェックしているという熱心なファンでもある美月ですらも欺いた変装をあっさりと看破(リピール)したマスターに戦慄していると、不意に店内にポップな曲調の電子音が鳴り響き、ハッと我に返った天城が慌てて羽織っていた薄桃色のパーカーのポケットから携帯端末を取り出す。 取り出された天城の端末はぶるぶると震えながら変わらずなんらかの曲の一節らしい電子音をループ再生させていた。
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