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「敦志、クリス・クリングルは誰の名前もらった?」
「ダメ。それは秘密の花園」
敦志と裕美子は、会社国際部の同期。そして、彼氏と彼女の関係でもある。初任の時期からプロジェクトを一緒にする機会が続くうちに気が合い、付き合い始めてからもう二年以上になる。
「言っちゃいけないことになってるだろ」
「けどさ、気になるじゃん」
社内恋愛に厳しい会社ではないのだけれども、なんとなく周りには付き合っていることを内緒にしてきた。今日は二人一緒に、クリス・クリングルの買い物に来ている。
「地下街の『なんでもあるや』に行こうよ」
「なんでもあるや」は裕美子のお気に入りの店。友人の誕生日などに、これというアイデアがない時、必ず良いものが見つかるのがこの店なのである。
「わあ、きれい」
店の前に来るなり、裕美子の目がショーウインドウに釘付けになる。煌びやかなクリスマス・ディスプレイの中で、ハウス型デザインのアドベント・カレンダーが、クリスマスまでの日々を数えている。
裕美子は、季節やイベントごとに変わる「なんでもあるや」のショーウインドウのディスプレイが大好きで、いつも楽しみにしていた。
明るい店内に足を踏み入れると、ここもあそこも目移りするほどの煌びやかなクリスマスアイテムで賑わっていた。
「真弓さんには、こんなのどうかな」
しばらく店の中を見て回ってから、裕美子は、サンタやツリーの形をしたクリスマス・クッキーの詰まった箱を手にした。
「うん。仕事に疲れた時につまむおやつに良いかも」
「コーヒーにも紅茶にも合うよね」
裕美子は「これに決めた」とそのクッキーの箱を手に抱え、カードも選んでレジに持って行った。
「敦志は? 良いの見つけた?」
「俺はまた別のところを見てみる」
「別のところ? 一緒に行こうか?」
「今日はやめとく」
「どうして? なんか秘密っぽい」
「秘密だもん」
敦志の秘密の相手に少し嫉妬するように、裕美子は「えー」と言うと口を膨らませた。
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