一寸先の人生②

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「いい店だっただろう?」 「そうね」  佳世子はあからさまに不機嫌だった。 「どうかした?」 「大森さんって子と、ずいぶん仲がいいのね」 「前の居酒屋からの店員さんなんだ。馴染(なじ)みなんだよ」 「へえ」  佳世子は冷たい眼で修治を見ている。 「初耳。あの子がお目当てで通っていたの?」 *  一年後。  修治は、学生のころから住んでいた1DKの木造アパートを引き払った。佳世子との結婚が決まったのだ。 「何年住んだかね」  がらんとした部屋を見まわしながら、大家のおじさんが訊いた。 「七年、いや、八年ですかね」  明日から、2JDKの新築マンションで、佳世子との生活がはじまるのだ。  ふと、あの店のことが頭をよぎった。  佳世子に疑われたせいもあって、あれから一度か二度しか顔を出していない。これからはもっと行かなくなるだろう。ひょっとしたら、大森さんには、ふたたび会うこともないかもしれない。  胸の奥がかすかにうずいた。  最後にもう一回、店に寄ろう。 「都合により本日は休ませていただきます。点点」  貼り紙を見て、修治はがっかりした。何という間の悪さだろう。だが、仕方がない。わざわざさよならをいうような仲でもないんだ。 (つづく)
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