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半年が過ぎた。
夏の夕方。店の前で、打ち水をしている大森さんとばったり顔を合わせた。
「鮫島さん、おひさしぶりです」
大森さんは屈託のない笑顔を向けてきた。
「いや、ごめん」
修治は屈託(くったく)を隠しつつ、もごもごと口の中で言いわけをする。
「ずっと忙しくて、なかなかお店に寄れなくてさ」
「いいんですよ。お時間があるときに来てくださいね」
「本当に、ずいぶんご無沙汰(ぶさた)しちゃって」
大森さんの笑顔から逃れるように視線を泳がせていた修治は、おやあ、と声を上げていた。
『台湾屋台の店・点点』
建物の外観は変わらない。が、看板が、国が違う。
「お店、どうしたの?」
「二ヵ月くらい前ですかね。経営者が代わったんです。ありがたいことに、わたしは続けて働かせてもらっています。餃子や点心のお店で、夜はお酒も飲めますよ」
「経営者って、あのマスター、やめちゃったの?」
大森さんは頷いた。
「前のマスター、なにかあったの?」
「大怪我をしちゃったんです」
「事故?」
修治は内心、首を傾げた。それほど経営状態が悪いようには見えなかったのに、怪我くらいで店を手放すものだろうか。
「事故というより、人災でしたね」
大森さんの眉がくもった。
「どういう意味?」
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