0人が本棚に入れています
本棚に追加
よくよく事情を聞いてみて、修治は驚いた。マスターは女に刺されて警察沙汰になったのだという。
「マスター、女性関係がかなり乱れていたみたいですね」
大森さんはのんびりと言う。
「あれじゃ奥さんもたまらなかったろうな」
他人ごとのようだ。いつかの夜の光景が脳裏に浮かぶ。大森さんも「関係者」のひとりじゃなかったのか。
「奥さんがいたのか」
「でも、刺したひとには結婚の約束をしていたみたいで、いけないですよねえ」
大森さんは肩をすくめてみせた。
「マスターが女を口説くのは挨拶みたいなものでした。わたしにまでいろいろと嬉しがらせを言ったりするんですよ」
修治はほっとした。おそらく、あの晩見たのも、そういうことだったのだ。
「わたしみたいに毎日一緒に仕事をしていれば、誰にでも同じことをするのがわかって、本気にはしないんでしょうけどねえ」
大森さんはよくできた娘だ。野郎といい仲にはならなかったみたいだ。よかった、よかった。
まあ、俺には関係ないけれど。明日は佳世子と会うんだ。そう、関係ない。
そうだ、明日は、佳世子をこの店に連れてこよう。
餃子も大根もちも焼売もちまきも、うまかった。店主は小太りの中年女で、以前とは違う意味で愛想もよかった。
最初のコメントを投稿しよう!