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現在、いかに不満があろうと、予測のつかない明日に踏み出すより、昨日と変わらない辛抱をする方がはるかに楽だ。
「その気持ちもわかりますけどね」
大森さんは苦笑していた。
「でも、一寸先はわからない、予期せぬ展開が起きるのが商売ですからね。落ち着いた、勝ったと思うと、逆転される。一勝一敗を繰り返している感じです。勝ったり負けたりしながら、わたしは働いているだけです」
「達観しているな」
言うと、大森さんは肩をすくめてみせた。
「ま、経営者じゃないですから」
「そこは大きい、重要な点だな」
経営者じゃなくても、俺だったら耐えられないけどな、と修治は考える。
次の客が入ってきたのをしおに、修治は店を出た。
空はようやく群青色に暮れていた。公園の木々が黒々した葉を茂らせている。駅までぶらぶら遠まわりしながら歩いて、酔いを醒(さ)ましたのち家に帰ろう。暑くもなし、寒くもなし、散歩にはちょうどいい気候だ。じきに本格的な夏が来る。
次の瞬間、不意に冷たい風が吹きつけた。
修治は思わず身震いをした。
これが俺の人生なのか?
(つづく)
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