一寸先の人生③

7/9
前へ
/9ページ
次へ
 娘の茉優利(まゆり)は確かに可愛い。  が、名前を考えるときも、ずいぶん揉(も)めたのだ。  母親からは不評だった。まゆ、か、ゆり、の方がすっきりしていていいというのだ。修治も同様に思ったが、佳世子は聞き入れなかった。 「神主さんに姓名判断してもらった、いい名前なのよ。岡田家ではみんなそうやって決めてきたんだから」  結婚が決まってから、佳世子はやたらに岡田家の「伝統」を振りまわすようになった気がする。そんな立派なお家柄ではないはずだが、それを指摘しても喧嘩になるだけだ。修治はぐっと耐える。  茉優利を妊娠して、佳世子は仕事を辞めた。つわりが重い、マタニティブルーだ、切迫流産だと、心配なことが次々起こった。が、出産予定日より半月早く産まれた茉優利は、大きな病気もなく元気に育ってくれた。そのことは救いだ。 「外はまだ明るいね」  修治は店の外に視線を向けた。 「日が長くなりましたね」 「こんな明るいうちから酒を飲むなんて、うちの奥さんに叱(しか)られそうだな。おかわり」 「いいんですか」 「構うもんか」  たまにはいいじゃないか。  会社に行く。お顧客(とくい)先まわりをする。景気のいい話はほとんど聞かない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加