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娘の茉優利(まゆり)は確かに可愛い。
が、名前を考えるときも、ずいぶん揉(も)めたのだ。
母親からは不評だった。まゆ、か、ゆり、の方がすっきりしていていいというのだ。修治も同様に思ったが、佳世子は聞き入れなかった。
「神主さんに姓名判断してもらった、いい名前なのよ。岡田家ではみんなそうやって決めてきたんだから」
結婚が決まってから、佳世子はやたらに岡田家の「伝統」を振りまわすようになった気がする。そんな立派なお家柄ではないはずだが、それを指摘しても喧嘩になるだけだ。修治はぐっと耐える。
茉優利を妊娠して、佳世子は仕事を辞めた。つわりが重い、マタニティブルーだ、切迫流産だと、心配なことが次々起こった。が、出産予定日より半月早く産まれた茉優利は、大きな病気もなく元気に育ってくれた。そのことは救いだ。
「外はまだ明るいね」
修治は店の外に視線を向けた。
「日が長くなりましたね」
「こんな明るいうちから酒を飲むなんて、うちの奥さんに叱(しか)られそうだな。おかわり」
「いいんですか」
「構うもんか」
たまにはいいじゃないか。
会社に行く。お顧客(とくい)先まわりをする。景気のいい話はほとんど聞かない。
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