0人が本棚に入れています
本棚に追加
修治にとって問題なのは、春に入ってくる新入社員が、次の春が来るまでに辞めていくことだった。入社したとき、社長が言ったとおりだ。同期の社員もいなくなっていて、気がつけば残っているのは自分ひとり。一年もっても三年はもたない。仕事の要領を教え込んで、ようやくひとりで動けるようになったころ、一身上の都合でいなくなってしまう。そしてまた新顔にゼロから同じことを教える。何年経っても繰り返しで、修治の後輩はなかなか育たない。
なぜかねえ、と社員同士でも首を傾げるばかりだ。顧客との揉めごともあるし、気疲れすることも多い。が、修治自身は、辞めたいと思うときはあっても、辞めようと思ったことはなかった。辞めてよそで働いたところで、どうせ同じような苦労はつきまとうじゃないか。俺は、親父のようにはならないぞ。
家に帰って掃除をする。洗濯もする。佳世子がふたたび勤めに出るようになってからは、修治が食事を作ることも多い。それでも折に触れて、子育てに協力が足りないと文句を言われる。
これ以上、どうしろというんだ。較べたくはないし言いたくもないが、親父よりはよっぽどましだぞ。
母親と父親は、相変わらず一緒に暮らしている。母親は、二年後に定年を控えている。父親は近所のスーパーマーケットの警備員だが、明日辞めても驚かない。
「けっきょく、あのひとはあのまんま生きて来ちゃった。いい気なものよね」
愚痴をこぼしつつ、母親は父親と別れなかった。その理由も、修治にはわかるようになって来た。むろん、世間体もあったろう。しかしそれ以上に、いったん決まった生活を変えるのが苦痛だったからではなかろうか。
最初のコメントを投稿しよう!