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コップを落とした。落としてしまった。
ガラスでできているコップだから、木の床では跳ねることはなく割れて砕け、一瞬で破片が辺りに散らばる。
……気がつけば、わたしは屋外にいた。
いつの間に移動したのだろう?心地よい風が優しく頬を撫でる。
ガラスでできた女性が踊っていた。
いっそ夜闇のなかであれば神秘的な美しさを感じられただろう。しかし今は昼間で、空は明るく、雲なども普通に浮かんでおり、明るい。
時折、太陽の光が安っぽく透明なガラスに反射して、瞬くように白くわたしの目を刺してくる。なぜガラスだと思ったのかはわからないが、わたしは彼女がガラス製だと知っていた。
彼女がいるのは白い板を敷き詰めたような小さなステージだ。いつできたものかわからない。縁のほうは雑草に侵食されているようだった。
わたしは椅子に座って、それを見ている。
地平線が無いのに、彼女の背景はそのまま青空だ。恐らくここは広い草原かどこかで、彼女のいる辺りよりも、わたしのいる辺りの方が低い位置なのだと判断した。
銀色の人の形をしたものが、ゆっくりと向こうからステージに向かって歩いている。
わたしは立ち上がろうとしたが、動けない。まるで接着剤で貼り付けられたようで、みじろぐことも許されない。何か言いたかったが、口を開くことも出来なかった。
パリン、と小気味良い音を立ててガラスが砕けた。銀色の人の形をしたものが、剣の形をしたものを打ち付けたからだ。
銀色の人の形をしたものが、今度はわたしに向かって歩いて来る。近くに来ると、銀色の鎧を着た人間だと分かる。それは、顔から血を流していた。あれでは前は二度と見えないだろう。その人は、わたしに向かって手を差し出してきた。
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