可逆不能のプロローグ

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「失礼しまーす……」  おっかなびっくりこっそりと、ドアを開ける。  すると、ひやり。足首あたりを冷気が撫でた。  ……え、寒すぎませんか、この部屋。今、七月の頭ですけど。  続いてカビ臭さが鼻を突いて、私は顔をしかめた。  部屋の中を見れば、埃っぽく、薄暗い。 「むむむ」  部屋の隅で煌々と光るスタンドライトが無ければ、私はそのままドアを閉めていただろう。  じっと目を凝らすけれど、スタンドライトに照らされているのは毛布の山。  彼がいるのはこの部屋じゃないのかな、と一瞬思った。まるで人の気配がない。  その時、もぞりと毛布の山が動いた。 「誰? なんか用?」  モ、毛布ガシャベッター!  と思ったのは一瞬で、毛布から顔と手だけを出している男がいた。 「な、なぜ毛布……?」  私がそう問うと、彼は天井に付いたエアコンを指した。 「アレ、寒い」 「温度上げないの?」 「壊れてる」 「あ、なるほどねー」  うんうん……、じゃない!  納得している場合ではなかった。 「あなたは、結城悠希?」 「そうだけど、お前誰? また冷やかし?」 「冷やかしじゃない! 私は二年C組、蒼井葵(アオイアオイ)。あなたに助けてほしいの」  そういった私の声が少し響くと、それからエアコンの唸りだけが聞こえた。  ユウキは少し面倒くさそうに頭をかいて、深く息を吐いた。  それから一言。 「とりあえず、入れば?」
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