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辺りが橙色に染まり始めた。
頭を傾けて見上げれば、街並みを包む大きなスクリーンが橙色に変わり、夕刻を告げている。
僕は、街の一番端にあるスクリーンに触れた。
液晶が映し出す世界は雄大で、緑の広がった地平線と繋がる巨大な空に、神々しい太陽が夕焼けを携え、その地平線に消えて行く。
小さな太陽を人差し指で触れると、沈んでいく様を指先でなぞった。
太陽の姿がすっかり見えなくなると、東側のスクリーンからここ、西に向かって、徐々に紺色になっていく。そしていつの間にか、街に夜が訪れる。
見上げれば頭上の夜空には星が燦然と輝き、次第に、不思議と僕ら人間も、夜の世界に誘われて行く。
早く帰らないと、シスターに叱られる。僕は、教会への帰路を急いだ。
「遅かったわね。また夕日に触っていたの?」
教会に戻ると、シスターに叱られなかった代わりに、いつもの鋭い少女の声がした。
寝床に就こうとしていたので、慌てて体を起こす。
いつものように黒くて長い、綺麗な髪をした女の子が、僕の顔をじっと見ていた。
この女の子の名前は知らない。
最近新しくこの教会へやって来た孤児であり、周りを寄せ付けないような態度から、シスターも手を焼いているようだった。
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