第1章

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「う、うん」 「感触はどうだったのかしら」 夕日の?そう訪ねる前に、女の子はふんっと鼻を鳴らす。 「何て、あなたは馬鹿なのかしら。現実の夕日が、触れられる場所にあるわけないじゃない。あれは、スクリーンとは名ばかりの“壁”よ」 そうだね、と言ったつもりで、小さく頷き返す。 「この世界は、天気も景色も気温も全て、あのスクリーンで調整されているのよ。今日は星がたくさん見えるけれど、それもどこかの管理局が、エンターキーひとつで設定しているの。この世界は、お偉いさんの人差し指ひとつで、あっという間に模様替え出来ちゃうのよ」 他の孤児が深い眠りに就いた真夜中、女の子は両腕を大きく横に広げる。少なくとも、“真夜中と設定されている”だけなのだろうが。 「それがこの世界。スクリーンに囲われた、囚われの世界よ。地面だって、実際は地面の画像が抽出されたスクリーンだし、上のスクリーンが曇天になったら、各所に設置されたスプリンクラーが作動して“雨”というものを表現しているの。夏が寒いのも、冬が暑いのも、全部“設定”のせいよ」 「知ってるけど、どうしたの、急に?」 僕の問い掛けは聞こえなかったのか、毛頭聞く気などなかったのか、女の子は髪をかきあげると、僕に顔をぐんと近付ける。
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