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「そんなこと出来ませんよ。これは僕の全財産ですから」
「それは分かっています。もし、貸してくれたら10倍にして返してあげるよ」
男は笑みを浮かべたまま、借りようとしてくる。次の日に10倍にして返す?まるで嘘のような話だ。貸しても返ってくる保証もないんだ。貸せる訳ない。
「私を信じてください」
男は悩んでいる僕に目線をあわせて言った。こんな話、とてもじゃないが信じられない。でも、この人は僕を騙そうとしているようには思えないんだ。頭の中でこの人の言葉が繰り返し再生される。僕はどうしたいんだ?
「どうか、信じてください。きっと、この銅貨を10倍にして返しますから」
男は僕の銅貨を持つ手をそっと優しく両手で包み込んだ。生まれて初めて、僕は人に頼まれごとをされている。今まで生きてきた無機質さが世界の全てではないように、人と人との関わりがここにあった。もう答えは出ていたんだ……
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