2話 ボクとゆたかくん 

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あまりのことに驚いて、 言葉もでずにただただゆたかくんを見詰めてた。 瞬間、妻の顔が浮かんだ。 ヒカリさんの奥さんは二人目の子供を妊娠中だった。 妻はなんていうだろう。 会社をやめるなんて無理だ。 「生活の保障はするからさ」 見透かしたように、ゆたかくんは言った。 遠くからサイレンが聞こえる。 それから、 「うそ、冗談だよ」 「え?」 「ヒカリさん、本気にしたでしょう」 ふざけんのもいい加減にしてくれよ、って。 ヒカリさんの怒った顔を、さもおかしそうに笑ったゆたかくん。 「それから明け方まで二人で飲み明かしたんだよ」 回想話が一息ついて、 ヒカリさんはすっかり冷めたコーヒーを飲んだ。 それから 「遠い昔のこと、ボクも若かった」 やっと私の顔を見て笑顔っぽくなった。
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