2話 ボクとゆたかくん 

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1.ヒカリさん   「ゆたかくんは…」 そう言ってヒカリさんはテーブルに顔をふせた。 泣き顔を見られたくなかったんだろう。 私は黙ってコーヒーを一口飲んだ。 数分たって、顔を上げたヒカリさんの眼は真っ赤, 痛々しくて私は目をそらせてもうすっかり暗くなった窓の外を見た。 それからヒカリさんの顔を見ながら テーブルのコーヒーをもう一度、すすった。 ヒカリさんは、振り絞るようにしゃべりだした。 「ゆたかくんはね、『ヒカリさん、これデビューアルバム』って、 嬉しそうにCDを持って助手席に座ったんだ」 遠い昔の思い出話。 「出来立てのファーストアルバムを  ボクのカーステレオに入れてね、  ボクたちはドキドキして音が鳴るのを待ったんだ」 手繰り寄せ、うわごとのようにしゃべり続けた。 やがて狭い車内に音が流れ、 「ボクは運転しながら、『すごいね、ゆたかくん』って言ったんだ」
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