2話 ボクとゆたかくん 

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ヒカリさんの叶わなかった夢を、ゆたかくんが実現させた。 その時、ちょっと悔しかったんだそうだ。 高校時代、 ヒカリさんはレコード会社に デモテープを送ったことがあった。 朗報はなく、わりとたやすくプロになる夢を捨てていた。 悔しいといってもさびしい気持ちの方が強い。 弟のようにかわいがっていたゆたかくんが これから 自分を離れ、遠くに行ってしまうと思うと。 こんな風に私とヒカリさんは、 うちの近くのファミレスで、時々会っていた。 コーヒーだけ飲んで、ひとしきり話したら 「またね」と別れる。 別れはいつもファミレスの駐車場。 ヒカリさんの車を私はいつも見送った。 見送ってから道路を渡り、1分歩けば私のうちだ。 あれから何年たっただろう。 ’92年、あんな事件がおこらなければ、 ヒカリさんに出会うことも、 こうして一緒にコーヒーを飲むこともなかったはずだ。
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