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意味あり気なその仕草に愛美の鼓動が早まった。
「気に入った──…これを貰おう」
ザイードの触れていた指が離れる──
愛美からベールを取り去るとザイードはそれを露店の親子に手渡した。
一通りの買い物を済ませ、ザイードの一行はこの集落を後にする。
太陽はかなり高い位置に昇っている──
だが目的地は近い。そのお陰で体力も然程消耗せずにザイード達は本拠地に戻ってきていた。
ラクダから降りた愛美は前を行くザイードの背中を見つめた。
先の露店での買い物以来──
ザイードは一言も口を聞かない。
何かに怒っているのだろうか?
だが、以前のような腹を立てた時の威圧感は微塵も感じない。
他の集落とは違い、本拠地は遺跡のような神殿に似た石造りの建物に囲われていた──
「ザイード様にまた何か仰いましたかな?」
アレフにこっそり問われて愛美は首を横に振った。
ザイードの様子が少し違うことにアレフも気付いている。
少し距離を置いて石造りの邸の中を着いていく愛美にザイードは背を向けたままだ。
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