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ザイードは歩きながら黒い装束を脱いでいくとそれを邸の隅にいた使用人の女に手渡した。
「湯の用意はできているか」
「はい」
唐突な要望に直ぐに返事は返される。ザイードは確認すると後ろから着いてきていた愛美の腕を強引に引っ張った。
「ザイード様っ!?」
アレフは無言で愛美の手を引いて立ち去るザイードの背中に咄嗟に声を掛ける。
「話しは後だ──っ! お前達もゆっくり休めっ」
振り返りもせずに張り上げた声だけが邸に響く──
どこかしら切羽詰まったような主人の声に取り残された一同は暫し動揺を隠せなかった。
「やれやれ……またか」
呆気に取られたアレフの肩を叩きターミルもぼやきながらザイードの消えた方を見つめる。
「また……ですな…」
アレフはポツリ、呟いて返した。
大きな石造の柱をぬけて中庭をザイードに引かれながら歩く。
強引過ぎる歩き方、足の長いザイードの歩幅に着いていくのがやっとだ。
強く掴まれ引っ張られる腕が痛い。だが逆らえない空気が漂う──
中庭を抜けて流水の音が聞こえてくるとザイードは愛美から黒装束をむしり取り、いきなり目の前の大きな浴槽に愛美を放り込んだ──
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