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お腹下しそう……
そう思いながらも一口啜れば結構イケる。
冷たい物を飲む習慣のないこの地域では鍋で煮詰めた山羊の乳のチャイ(ミルクティ)がお茶代わりでもある。
水を飲むよりは全然安全だと思い直して愛美はコップを口に運んでいた。
アレフ以外はザイード達全員が黒い装束を身に纏っている。
愛美もそれを着せられて、休憩地に選んだこの集落をザイードと観て周っていた。
商人で溢れていたザビアとは違い、ここは人も少ない。
ほんとの休憩地点といったところだろうか──
少し離れたところで店を広げ始めた親子連れにザイードは何やら話し掛けている。
愛美は傍にいたアレフに声を掛けた。
「ザイードの邸へはまだ遠いの?」
「いえ、もうこの近くでございますが……」
「近く?」
なら早めに休憩を切り上げて真っ直ぐ向かえばいいのに……
慣れないラクダの旅で疲労を溜める自分を気遣ってくれたのだろうか?
そんな疑問を浮かべた愛美をアレフは見つめると口を開いた。
「点在する集落に立ち寄るのもザイード様の大事な務めでございますから」
「務め?」
アレフは頷いた。
「旅人が立ち寄りここで売り買いをすることでこの者達の生活が成り立っている──…私たちが寄り付かぬと言うことはここに住む者を見捨てるということに繋がりますので……」
「………」
しっかりとした正しい言い分だ。だが愛美は府に落ちない表情を見せていた。
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