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東京に戻ってきたちはるが真っ先にしたことは、宝箱に大切にとっておいた暁との手紙を捨てることだった。高校を卒業して2年、その間やりとりした手紙はかなりな量にのぼっていた。 紐でくくられた手紙の束は、どこか所在なげで頼りない。それなのにそこで密やかに呼吸していることを意識してしまう自分がいた。 視界の隅に束の存在を追いやり、帰りに受けとったリゲルからの手紙を開く。 〈……勉強の息抜きに、湘南の海に行きました。波が立つ度に、白い光が燃えるようにきれいで、星が爆発した時の光みたいだと思いました。ちはるさんにも見せたかったので、写真をいれておきます。これで元気になれますか? ちはるさん、元気がないような気がしたので……〉 「参ったな……見透かされてる」 リゲルの鋭さに舌を巻きながら、ちはるは挟まれていた写真をとりだした。そこには、サーファーの頭が浮かぶ真っ青な海が白い波しぶきをあげて躍動する景色が写しだされている。 「わ、すごい……」 あまり海に縁のないちはるは、しばらくそれを眺めてから机の前のボードに飾る。リゲルとの手紙は、やりとりする回数は減ったものの、続いている。 〈……ちょっと落ち込むことがあったの。でももう大丈夫。リゲルくんの写真のおかげで元気が出ました。すごくキレイ。ありがとう、大切にするね。……〉 星をモチーフにした便せんに書き終えて、公園へ向かう。 滑り台の穴の中にリゲル宛の手紙を落とし、ふと公園のフェンスのはり紙に気づく。 「閉鎖……?」 きちんと目を通すと、ちょうど8月いっぱいで公園を閉鎖し、その後地域の場となる公共施設を建てるために工事を始めるとあった。 色あせた滑り台もブランコも、確かに今どきのカラフルで怪我をしにくい素材のものではない。それでも、確かに誰かと誰かを結ぶ存在としてそこに、今進行形で存在している。 いつか、リゲルとの手紙のやりとりに終わりが来ることは漠然と気づいていた。ちはるは薄い色素の空が急に陰ったような不安を覚えて、空を見上げる。 どんな時もその向こうに茫漠とした宇宙をたたえた空に変わった様子はない。 「もう少し、後のことだと思ったんだけどな……」 やたら目の中に白く残る公園のはり紙を一瞥して、ちはるは胸に小さく空いた穴に目をつぶるようにして公園を後にした。
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