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〈……公園が閉鎖したら、手紙も終わりにしようと思っています。新しい場所を探してくれるのは嬉しい。でもリゲルくんは、音大附属高校の受験があるでしょう? 今はそちらに集中した方がいいと思うから。……〉
〈……嫌です。ちはるさんと切れたくないです。受験勉強もしっかりやります。だから……〉
〈……通ってきた道だから言えるけど、高校受験は甘くないんだよ。それでなくてもリゲルくんは出遅れたでしょう? 今、自分がやるべきことにしっかり向き合って、それから再開してもいいと思う。どうかな?……〉
〈……受験でも、手紙くらい続けられます。どうしても手紙がダメなら、メールとか電話とか? それか会えませんか?……〉
相手を想う言葉を重ねるほどに手紙の内容は、リゲルとちはるの間で平行線をたどっていた。
リゲルが頑なになればなるほど、星の行方を案じるようなつかみどころのない心配が大きくなる。
行間から伝わってくる必死さを子どものわがままだと切り捨てられるほど、ちはるは鈍くなかった。
このままでは、必ず受験に支障をきたす。
そう思いながら、2枚目の便せんをめくる。
〈……ぼくはちはるさんが好きです〉
文末の締めくくりに放り投げられた、今は痛みにしか繋がらない一文。
リゲルが中学生だとか、会ったことがないとかは、関係なかった。ちはるにとっては、オリオン座でひと際輝く美しいリゲルのように鮮烈で眩しい相手だ。でもその感情は、リゲルが返してほしがっている感情とは違う。
名付けられた感情があらわになった今、ちはるがリゲルのためにできることは一つだけだった。
〈これを最後の手紙にしたいと思います〉そう書いてちはるは、別の便せんに〈これを最後の手紙にします〉と、無意識に力をいれた筆圧で書き直した。
〈私のような歳上を相手にリゲルくんが伝えてくれた気持ちは、とても嬉しかった。私もリゲルくんのことは好きです。とても大切です。でもリゲルくんの言う“好き”とは違います。……〉
本当なら交差するはずのない相手だった。
捨てるはずの小さな手紙が結びつけた奇跡は、無限に広がり続ける宇宙で、そして人の寿命より遥かに長く輝き続ける星々の下でどんなに愛しく感じられたか。
その愛しさは、今のリゲルにはきっと伝わらない。
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