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役割を終えた遊具が撤去されていく。
たくさんの子どもたちの歓声も泣き声も吸い込んで、そしてその中の一部にちはるとリゲルの想いを包みこんだまま、滑り台はひっそりと公園から除かれた。
〈……ちはるさんの手紙を読んで、ぼくが中学生なのがいけないのかとか、受験生だからダメなのかとか、とても考えました。分かったのは、ぼくがどうしようもなく子どもだということだけ……〉
悔しいと素直に訴えるリゲルの悔しさは、その形のままで、彼の中に残る。でも今はそれでいい。いつか必ず、その悔しささえも抱きしめられる時がくる。
その時きっと、リゲルは燦然と新たな輝きを身にまとって次の道へと進んでいくだろう。それは彼自身が一番分かっているはずだ。
ちはるは時計を見た。9月に入って始めた家庭教師のアルバイトの時間が迫っていた。
8月の最後の日に受けとったリゲルの手紙の文面を思い出しながら、解体工事が進む公園に背を向ける。
隣の人にさえ言葉の届かない東京の街で、覚えることはないだろうと思っていた郷愁が胸の奥を満たしていく。
「……さよならリゲル」
聞かせるともなく呟かれた言葉は、張り巡らされた電線の向こうに吸い込まれ、遠いリゲルの星へ航路をのばして去っていった。
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