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不確かな言葉をもてあますように、東京の底はいつだって息苦しい。 林立するビルがせめぎあって、狭くなった空に星は見つからず、張り巡らされた電線は誰かと誰かを繋いでいるはずなのに、ありふれた世界は誰のものにもならず薄汚れた空気にとけていく。 三叉路の角で知らない人を陽炎のように見送り続けてきた児童公園は、古びたブランコと滑り台だけが暑さの中で必死で息つぎをしているように見えた。 バッグの中のスマホが震えて、ちはるは電話をとりながら寂れた公園へと足を踏み入れた。 「ちはる? やっぱり大丈夫? なんか気になっちゃって」 「あ、ううん。こっちこそ重い話しちゃってごめんね……」 「いいよ、全然。遠距離恋愛って難しいと思うし、あまり気を落とさないで」 「ありがと」 「辛くなったらいつでもいいから話してね。そうすると楽になれるから」 「うん、分かった。ごめんね……」 「そんな謝らなくていいから。じゃ明日の教育学でね」 象のような怪獣のような得体の知れない生き物の形をした滑り台に寄りかかって、ちはるはスマホをバッグにしまう。 その時、指の先にざらりとした感触を覚えてそのまま引っ張りだす。 薄いペールブルーの手紙だった。バッグに入れっぱなしにしたままで、しわくちゃになりかけている。 宛先は、長野県。 そして差し出し人は、桜木ちはる。 ちはるはしばらく手紙を見つめ、おもむろに封を破った。 透かし模様で夏の星空が散りばめられた便せんを開くと、小さな字でちはる自身の近況と、相手の様子を思いやる内容が丁寧に書き綴られていた。 出すには日が経ってしまって、遅れた時候の挨拶が間抜けな顔を見せる。 途中まで文面を追っていたちはるの視界はあっという間に曇り、紙面が歪んだ。 ちはるは奥歯を噛み締めると、便せんを強く握りしめる。自分では抱えきれない気持ちの欠片を一緒に砕くように、乾いた音がした。 便せんをもたない方の指が、滑り台の錆びた表面を慰めるように撫でる。ふとその指先が空洞を探り当て、ちはるはなにげなく視線を向けた。 斜めの方向に下がる穴が物欲しそうに口を開けている。 そこに手の中で震えている紙片を落とす。 薄汚れて醒めた橙色の穴にペールブルーがおさまっている姿は、まるでちはるの心そのもののようで、なぜかそこにあることが自然なように納得していた。
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