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ベランダから見る狭い空に烈しい炎を放つ星々を探して、ちはるはスマホを手にしたままため息をついた。薄い灰色の夜空しか見えない。 「どうしよう……」 こぼれた言葉は宙に放り出されて、ちはるの悩みを深くする。 気持ちとは裏腹にスマホの明るい画面には、サークルの先輩からのメッセージが届いていた。 「返事はいつでもいいから、真剣に考えてくれないかな」と書かれた内容に、昨晩の天文サークル定例観測会でのことを思い出す。 都内西部の山の上でいつもの天体観測が行われていた場で、久しぶりに顔を出して声をかけてきたのは、4年の伊藤悠輔だった。 「……やっぱり、東京じゃたいして見えないねー」 いつもはふざけていることが多い悠輔が、真面目な表情で缶コーヒーを差し出して立っていた。ちはるは、お礼を言いながら夜空を再び見上げた。 「空が明るすぎるんですよね」 「夜景はきれいなんだけどね……」 悠輔はちはるの隣に間をあけて座った。都心ほど見にくくはないものの、長野に比べれば全然見えていない夜空に、ちはるはまたため息をついた。 「……悩みごと?」 「え? いやそんな、ないです……」 2人の間に降りた沈黙は星々の隙間に落ち込んで、誰にも拾われないような淋しさが漂った。それをふりはらうように、悠輔は夜空からちはるの顔へと視線を移した。 「オレ……、ちはるちゃん好きなんだけど、つきあわない?」 それまでそんな素振りを一切見せなかった悠輔の告白に、ちはるは思わず「へ?」と間抜けな声を出していた。「夏休み入っちゃうからさー」と、少し言い訳めいた言葉を口にした悠輔を、嫌いではないけど、正直意識もしていなかった。 ちはるは机に出したままの宝箱に目をやる。部屋の灯りに反射したラインストーンは色あせて、本物の星の輝きの欠片も感じられない。 ちはるは机に戻ると、折り畳まれたままのリゲルの手紙を手にとった。 〈……ぼくも名前の通り、青色超巨星が好きです。高原で見たリゲルは忘れられません。他のどの星よりも強く光っていてかっこいいし、リゲルみたいになれたらと思っています。……〉 本当の名前も顔も知らない少年が、全天を覆う星々の中でリゲルに憧れる様子を想像して、ちはるはくすぐったいような柔らかな気持ちになる。
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