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翌週、学生時代の友人の裕子がやってきた。
商社マンと結婚したお金持ちの女性で万事派手好みなので「セレブ裕子」というあだ名が
つけられている。
夫からのお土産といってベルギーで買ったゴディバのチョコレートを持ってきた。
ゆかりの顔から血の気がひいた。
「どうしたの。ゆかりのご要望よ」
「そ、そうね」
セレブ裕子の夫がヨーロッパに出張と聞いて、
「羨ましい」「私ベルギーのチョコレートが大好きなの」といって言ったのを忘れていた。
お土産をおねだりしたのではなく、ただセレブ裕子のハイスペックな嗜好に合わせて口に
しただけなので、まさか買ってくるとは思わなかった。
(実際にも好きなのだが)
ゆかりは紅茶をいれた。
「せっかくだから食べましょう」
セレブ裕子がチョコレートの箱を開け。
ゆかりは生唾を飲み込んだ。
目の前にゴディバのトリュフが並んでいる。
ゆかりは銀座で裕子とお茶を飲んだときにこれが一番好きと口にしたのを覚えていたのだ。
(心の中で自分の失態を嘆いた)
裕子にせかされてひとつだけ口に入れた。
とろける甘さとカカオの香りが口の中に広がる。
糖分を避けていたので、いっそうこたえる。
「おいしいわ」
「そうでしょ。遠慮なく食べて」
裕子はさらに勧めた。
「一度に食べるのはもったいないわ」
ゆかりはそういって蓋を閉じようとした。
「気にしないで。また近々出張するから」
裕子はその蓋を開けると、自分でもひとつとって口にした。
「このトリュフはゴディバ90周年記念のものでとてもおいしいの。食べてみて」
ゆかりは自分が買って来るように言ったみたいになってしまったので、食べないわけに
は行かなかった。
結局裕子とおしゃべりしながら5個食べてしまった。
ゆかりは翌日さっそくスポーツジムに行き死に物狂いでエアロバイクを漕いだ。
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